医療事務の仕事の中でも、精神的な負担が大きいのがクレーム対応です。私は大学病院で22年働く中で、窓口担当のスタッフでは対応が難しくなった場面に呼ばれ、代わりに説明する立場を数多く経験してきました。いわゆる「エスカレーション対応」です。この記事では、どんなクレームが上に上がってくるのか、そしてその場で何を心がけていたのかを、現場のリアルとしてお伝えします。
エスカレーションされるクレームにはパターンがある
1日に1,000人以上の外来患者さんが来院する病院では、待ち時間も会計もどうしても長くなりがちです。現場で見てきた限り、窓口から上に上がってくるクレームには共通するパターンがありました。
- 待ち時間についての強い不満(診察も会計も「なんでこんなに待つのか」)
- 医療費の金額に対する納得のいかなさ(「先月と同じ診察なのに今日は高い」)
- 制度上どうにもならないこと(保険適用外・自己負担割合など)への不満
- 窓口担当者の説明では「決まりですので」としか言えず、患者さんの感情が収まらないケース
ここで大事なのは、窓口の担当者は決して間違った説明をしていないことがほとんどだ、という点です。説明の内容は正しい。でも、制度の説明だけでは患者さんの気持ちが収まらない。そういう場面で、少し違う立場の人間が改めて話すことで落ち着くケースが多くありました。
「金額への不満」は説明の仕方で変わる
特に多かったのが医療費の金額に関するクレームです。医療費は診療報酬の点数制度で決まっているので、窓口が勝手に高くしたり安くしたりすることはできません。ただ、患者さんからすれば「同じような診察だったのに、なぜ今日は高いのか」という疑問はもっともなんです。
こういうとき、口頭で「検査が増えたためです」と言うだけでは、なかなか納得してもらえません。私が効果的だと感じていたのは、明細書を一緒に見ながら「前回はこの検査がなかったのですが、今回はこれが追加されています」と、具体的に指し示しながら説明することでした。目に見える形で違いを示すと、多くの方は「そういうことか」と納得してくださいます。
「持ち合わせが足りない」という場面も日常茶飯事
金額への不満と並んでよくあるのが、「今日はこんなにかかると思っていなくて、持ち合わせが足りない」という場面です。診察の流れで検査が急に追加になった日などは、想定より会計が高くなることがあるので、患者さんばかりを責められません。多くの病院には、後日払いや次回受診時にまとめて支払うといった仕組みがあるので、窓口ではまず選択肢を示して、落ち着いてご案内します。
ただ、こうした案内がいつもきれいに収まるとは限りません。私が対応した中で忘れられないのが、会計額を見て「高すぎる!」と窓口で声を荒げてしまった患者さんです。持ち合わせが足りないとのことだったので、「次回のご予約のときに、今日の分とまとめてお支払いいただければ大丈夫ですよ」とご案内したのですが、その方は怒ったまま帰って行かれました。こちらとしては精一杯の提案をしたつもりでも、あの方の怒りの根っこは「支払い方法」ではなく、「思ったより高かった」こと自体にあったのだと思います。
また、中には理不尽なクレームもあります。ご自身の勘違いや確認不足が原因だったのに、窓口の対応のせいにされて、こちらがお詫びすると「わかればいいんだ」という様子で帰って行かれた方もいました。正直、モヤモヤは残ります。でも、その場で「あなたのミスですよね」と正すことは、窓口対応としては得策ではありません。事実の記録は淡々と残しつつ、その場は相手の顔を立てて収める。これも窓口の技術のひとつです。
こうした経験から学んだのは、誠意を尽くしても、その場で納得してもらえないことはあるということです。大事なのは、感情で返さずに、制度上できる最大限の選択肢を提示すること。理不尽なクレームを真に受けすぎないこと。そして、収まらなかったときに自分を責めすぎないことです。「解決できない日もある」と知っておくだけで、クレーム対応での心の守り方は変わってきます。
エスカレーション対応で心がけていたこと
代わりに対応に入るとき、まず絶対にやらないと決めていたのが、患者さんの目の前で窓口担当者を責めるような態度を見せることです。「担当の説明が悪くて申し訳ありません」という入り方をすると、患者さんの不信感はむしろ強まりますし、担当者も傷つきます。
意識していた順番は、①まず患者さんの話を最後まで聞く、②お待たせしたことや不快な思いをさせたことへのお詫びを伝える、③そのうえで、あらためて制度や金額の説明をする、という流れです。説明の内容は窓口担当者と同じでも、「ちゃんと話を聞いてもらえた」と感じてもらえるだけで、患者さんの態度が和らぐことは本当に多かったです。
対応が終わったあとの、窓口担当者へのフォロー
エスカレーション対応で見落とされがちですが、対応後は窓口担当者へのフォローも同じくらい大切です。クレームを受けた直後のスタッフは、思った以上に落ち込んでいます。「私の説明が悪かったのかな」と自分を責めてしまう人も少なくありません。
だからこそ、対応が終わったら必ず「あなたの説明は間違っていなかったよ」と声をかけるようにしていました。そのひと言だけでも、次の患者さんへの対応に向けて気持ちを立て直すきっかけになります。クレーム対応は個人戦ではなくチーム戦。そう捉えられる職場は、スタッフが長く続けられる職場だと思います。
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まとめ
クレーム対応は「正しい説明をすること」と「患者さんの感情を受け止めること」の両方が必要な仕事です。そしてエスカレーションされる場面ほど、この2つのバランスが問われます。これから医療事務を目指す方には少し身構えるテーマかもしれませんが、対応の型を知っておくだけでも、いざというときの安心感はまったく違います。この記事がその参考になればうれしいです。


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