「保険証をお願いします」と声をかけたら、期限切れの紙の保険証を出された——2026年の夏、窓口でいちばん増えているやりとりかもしれません。
後期高齢者医療制度は、この1〜2年で窓口対応のルールが大きく変わりました。保険証そのものがなくなり、負担割合の区分が増え、そして2026年8月には自己負担の上限額まで引き上げられています。
大学病院の外来で22年間、1日1,000〜1,200人の患者さんを受け付けてきた経験から、いま窓口で押さえておきたいポイントを整理します。
【2026年8月時点】後期高齢者の「保険証」はもうありません
まず、いちばん大きな変化です。後期高齢者医療制度の健康保険証は、2025年7月31日で有効期限を迎え、それ以降は新しい保険証が発行されていません。
そのため、いま窓口で確認するのは次の2つになります。
- マイナ保険証(マイナンバーカードでオンライン資格確認)
- 資格確認書(マイナ保険証を使わない方に交付される書類)
2026年7月末までは暫定措置として、マイナ保険証を持っているかどうかに関係なく、後期高齢者の方全員に資格確認書が無償で交付されていました。2026年8月からはその暫定措置が終わっているため、手元の書類が何なのかをご本人が分かっていないケースが出てきます。
そして重要なのが、期限切れの従来型保険証を出されても、それでは保険診療を受け付けられないという点です。扱いは「保険証を忘れた場合」と同じになり、いったん医療費の全額(10割)をお支払いいただくことになります。
75歳以上の患者さんにとっては、いちばん混乱しやすい変更です。窓口では「その保険証は期限が切れています」と伝えるだけで終わらせず、マイナンバーカードをお持ちか、資格確認書が届いていないかまで一緒に確認すると、10割負担を避けられることがあります。
負担割合は1割・2割・3割の3区分
後期高齢者医療の自己負担割合は、所得に応じて3段階に分かれています。
| 負担割合 | 対象 |
|---|---|
| 1割 | 一般所得の方(多数) |
| 2割 | 一定以上の所得がある方 |
| 3割 | 現役並み所得の方 |
2022年10月に2割負担が新設され、それまでの1割・3割の2区分から複雑になりました。負担割合はマイナ保険証ならオンライン資格確認の画面で、資格確認書なら書面に記載されています。レセプトコンピュータの登録内容と一致しているかを必ず突き合わせてください。ここがずれていると、後日の返金や返戻につながります。
2割負担の「配慮措置」は終了しています
2割負担が導入されたとき、負担の急増を抑えるために「外来の負担増加額を1か月3,000円までに抑える」配慮措置が設けられていました。
これは2025年9月30日をもって終了しています。2025年10月以降は配慮措置がなくなり、外来の自己負担限度額がそのまま適用されるようになりました。「以前は3,000円で済んだのに」という問い合わせを受けることがあるので、経緯を知っておくと説明しやすくなります。
【2026年8月改正】外来の上限額が引き上げられました
そして2026年8月1日から、高額療養費制度の見直しにより70歳以上の自己負担限度額が引き上げになりました。後期高齢者医療の患者さんに直接関わる変更です。
| 所得区分 | 外来のみの上限(月) | 入院を含む上限(月) |
|---|---|---|
| 一般(年収約370万円以下) | 18,000円 → 22,000円 | 57,600円 → 61,500円 |
| 住民税非課税(低所得II) | 8,000円 → 11,000円 | 24,600円 → 25,700円 |
| 一定所得以下(低所得I) | 8,000円(変更なし) | 15,000円 → 15,700円 |
外来だけを見ると、一般区分で月4,000円の負担増です。年間の上限も14.4万円から21.6万円に上がりました。
3割負担(現役並み所得)の方は、70歳未満と同じ区分が適用されます。こちらも「80,100円+1%」が「85,800円+1%」に引き上げられています。
あわせて、8月から翌年7月までの1年間で自己負担の合計に上限を設ける「年間上限」が新設されました。一般区分なら53万円、住民税非課税なら29万円、一定所得以下なら18万円です。長期入院や通院が続く方には、負担が軽くなる場合もあります。
※上記は厚生労働省が示している見直し内容にもとづく金額です。最終的な金額は政令で確定します。改正の全体像は高額療養費制度とは?【2026年8月改正】自己負担限度額と申請方法にまとめています。
限度額の確認は、こう変わりました
以前は、限度額までの支払いにするために「限度額適用・標準負担額減額認定証」を窓口に提示してもらう必要がありました。
いまはマイナ保険証でオンライン資格確認をすれば、認定証がなくても所得区分が確認でき、限度額を超える請求を避けられます。窓口で同意を得るだけで済むので、患者さんの手間はぐっと減りました。
ただし、資格確認書を使っている方は従来どおり認定証の確認が必要です。ここが混在しているのが今の窓口の難しさです。「マイナ保険証か資格確認書か」で対応が分かれる、と覚えておくと迷いません。
低所得区分の方は、入院時の食事療養費の減額も対象になります。区分の見落としは患者さんの負担額に直結するので、ここは特に慎重に確認していました。
現場で痛感したこと
私がいた大学病院の外来は1日1,000〜1,200人規模で、後期高齢者医療の対象になる方は毎日たくさんいらっしゃいました。レセプトの返戻は通常でも月50〜80件ありましたが、制度改正の直後は必ず増えます。
理由はいつも同じで、ルールが変わったことがスタッフ全員に行き渡っていないからです。誰かは知っているのに、シフトの都合で聞いていない人がいる。その一人が入った日の分だけ、記載漏れや算定ミスが出る。
だから改正情報は、個人で追いかけるより朝礼で共有してマニュアルに書き足すほうが確実でした。「知っている人がいる」ではなく「全員が同じ基準で確認できる」状態にすること。地味ですが、返戻をいちばん減らせた取り組みでした。
よくある質問(FAQ)
Q1. 75歳の誕生日を迎えた月は、どちらの資格で受け付けますか?
A. 75歳の誕生日当日から後期高齢者医療制度に切り替わります。誕生日の前日までは元の保険(国保や社保)、当日以降は後期高齢者医療です。月の途中で保険者が変わるため、レセプトも前後で分けて作成します。自己負担限度額もそれぞれで計算されるので、患者さんの負担が一時的に増えることがあります。
Q2. 期限切れの保険証を出されたら、どう案内すればいいですか?
A. まず「マイナンバーカードはお持ちですか」と確認してください。あれば、それで資格確認ができます。なければ、資格確認書が郵送で届いていないかを尋ねます。どちらもない場合はいったん10割負担となりますが、後日資格が確認できれば払い戻しを受けられる旨をあわせて案内すると、患者さんの不安が和らぎます。
Q3. 負担割合が去年と違うと言われたときは?
A. 所得区分の判定は毎年8月に見直されます。前年の所得をもとに決まるため、年金額や収入の変化で割合が変わることがあります。窓口では資格確認の結果に従って会計し、区分そのものへの疑問はお住まいの市区町村または後期高齢者医療広域連合に問い合わせるようご案内するのが基本です。
Q4. 2026年8月の改正で、負担割合も変わったのですか?
A. 変わっていません。1割・2割・3割という負担割合の区分はそのままで、変わったのは高額療養費の「自己負担限度額」です。毎回の窓口負担の計算方法は同じで、上限に達したときの金額が上がった、という理解で大丈夫です。
まとめ
- 後期高齢者の健康保険証は2025年7月末で終了。いまはマイナ保険証か資格確認書
- 期限切れの保険証では保険診療を受け付けられず、いったん10割負担になる
- 負担割合は1割・2割・3割の3区分。2割の配慮措置は2025年9月で終了
- 2026年8月から外来の上限額が引き上げ(一般区分は18,000円→22,000円)
- 限度額の確認はマイナ保険証なら認定証不要、資格確認書なら従来どおり必要
後期高齢者医療制度は、この2年で窓口対応がいちばん変わった分野かもしれません。確認する書類が変わり、上限額も上がった。覚えることは増えましたが、「資格の確認」「負担割合」「限度額」の3つを順に押さえるだけで、ほとんどのトラブルは防げます。
▶あわせて読みたい:保険証の種類一覧|社保・国保・後期高齢者の違いと確認方法
※制度・金額は変更される可能性があります。最新情報は厚生労働省やお住まいの後期高齢者医療広域連合でご確認ください。


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