「働きながら年金をもらうと減らされるって本当?」高齢の患者さんやそのご家族から、会計窓口でこう尋ねられることは少なくありません。在職老齢年金の仕組みは一見複雑ですが、ポイントを押さえれば決して難しくありません。今回はFP資格を持つ元大学病院の医療事務スタッフが、22年間の窓口経験を交えながら基礎から丁寧に解説します。
在職老齢年金とは何か
在職老齢年金とは、厚生年金保険に加入しながら働く60歳以上の方が受け取る老齢厚生年金について、給与(標準報酬月額)と年金額の合計が一定の基準額を超えた場合に、超えた分の半分が支給停止される仕組みのことです。この基準額(支給停止調整額)は毎年度見直されており、2026年4月からは62万円へと大幅に引き上げられました(2025年度は51万円)。この改正により、年金を減額されずに働き続けられる方が大きく増えています。
対象となるのはあくまで老齢厚生年金であり、老齢基礎年金(国民年金部分)は対象外である点が重要です。窓口で「年金が減るなら働かない方がいいのでは」と相談されることもありますが、基礎年金は満額受け取れるため、必ずしも損とは限りません。過去には基準額が28万円(65歳未満)だった時期もあり、「昔、年金がかなり減らされた」という記憶をお持ちの方ほど、現在の基準額との違いに驚かれます。改定の経緯を知っておくと相談対応の幅が広がります。なお、共済組合に加入している公務員なども基本的な考え方は同じであり、業種を問わず幅広い方が対象になり得る制度です。
支給停止額の計算方法
計算式は「(総報酬月額相当額+年金月額-基準額)÷2」で支給停止額を求めます。たとえば年金月額が10万円、給与に相当する総報酬月額相当額が56万円の場合、合計は66万円となり、基準額62万円を4万円超えるため、支給停止額は2万円(4万円÷2)です。つまり年金は10万円から2万円減額され、8万円が支給されることになります。
総報酬月額相当額には賞与も月割りで含まれるため、賞与の支給状況によって支給停止額が変わる点も説明の際のポイントです。また65歳以降は老齢基礎年金と老齢厚生年金の受給権が別々に発生しますが、在職老齢年金の計算対象は引き続き厚生年金部分のみとなります。正確な金額は個人の標準報酬月額によって変わるため、最終的には年金事務所やねんきんネットでの試算を勧めることが実務上は安全です。窓口で概算を伝える場合も「あくまで目安」と前置きし、断定的な数字を口にしないよう気をつけていました。
窓口対応で押さえておきたいポイント
医療事務の窓口では、後期高齢者医療制度や介護保険の自己負担割合を判定する際に「収入」を確認する場面がありますが、在職老齢年金による支給停止後の年金額が収入の判定に関わってくる点に注意が必要です。また、退職や勤務時間の変更によって標準報酬月額が下がると支給停止額も再計算されるため、「退職したのに年金額がすぐ変わらない」といった相談にも背景を理解して対応できます。
さらに、繰下げ受給を検討している方には、在職中は繰下げ待機中でも支給停止相当分は増額の対象にならない場合があることも案内できると親切です。制度改正の情報は日本年金機構のホームページや年金事務所での確認を促すのが安全で、医療事務スタッフが断定的な金額を伝えることは避けるべきです。加えて、傷病手当金や高額療養費など他の給付制度と年金を同時に受給しているケースもあるため、複数の制度が絡む相談は一人で抱え込まず、上司や社会保険労務士につなぐ判断も大切です。
現場でのエピソード
大学病院の会計窓口で22年働くなかで、再雇用で働き続ける70代の患者さんから「年金が減らされて生活が苦しい」と相談を受けたことが何度もあります。詳しく伺うと、実際には基礎年金部分は満額受給できており、減額されているのは厚生年金部分の一部だけというケースがほとんどでした。窓口対応は本来医療費の説明が業務ですが、こうした社会保障の仕組みを一言添えられるだけで、患者さんの不安がやわらぐことを何度も実感しました。外来には1日1,000人を超える患者さんが訪れる日もありますが、限られた時間の中でも小さな声かけの積み重ねが信頼関係につながると感じています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 在職老齢年金の対象は何歳からですか?
60歳以上で厚生年金保険に加入しながら老齢厚生年金を受給している方が対象です。65歳以上でも厚生年金に加入して働いていれば、同様に支給停止の判定が行われます。
Q2. パートやアルバイトでも対象になりますか?
厚生年金の加入要件(週の労働時間がおおむね20時間以上など)を満たしていれば、パート・アルバイトでも在職老齢年金の対象になります。加入要件を満たさない働き方であれば、そもそも対象外です。
Q3. 支給停止された年金は将来戻ってきますか?
支給停止された部分は、原則として後から追加で支払われることはありません。ただし繰下げ受給を選択した場合には増額の対象となる部分が残ることもあるため、個別に年金事務所で確認することをおすすめします。
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まとめ
在職老齢年金は、働きながら年金を受け取る60歳以上の方にとって避けて通れない制度です。「(総報酬月額相当額+年金月額-基準額)÷2」という計算方法さえ理解しておけば、窓口での説明も落ち着いて行えます。2026年4月から基準額が62万円に引き上げられたことで、減額を気にせず働ける方はさらに増えました。医療事務スタッフとして高齢の患者さんと接する機会が多いからこそ、こうした社会保障の知識を持っておくことは大きな強みになります。日々の業務に加えて、少しずつ制度知識を積み重ねていくことが、患者さんからの信頼にもつながっていくはずです。
※本記事の基準額等は2026年7月時点の情報です。支給停止調整額は毎年度見直されるため、最新の情報は日本年金機構のホームページ等でご確認ください。


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